暁に星の花を束ねて
隼人は、深く息を吐いた。


「……おまえは、私の失敗から学び、この椅子に座る」

「無駄にはしません」


佐竹は一歩だけ前に出る。


「私は、あなたの部下でした」


その言葉には、誇りも恨みもなかった。


「命令に従い判断を補佐し、あなたの決断が通るよう、裏側を整えてきた」


一拍。



「尊敬していた時期もあります」



隼人の眉が、わずかに動く。



「ですが部下であるということは、上司の罪を見逃す免罪符ではありません」



佐竹は、静かに告げる。


「あなたが越えた線を、わたしは越えません」


沈黙が落ちる。

やがて隼人は、椅子の背に身を預け、窓の外を見た。



「……この会社を壊すな」

「壊しません」



即答だった。


「あなたの功績も、負債も、すべて背負います。
その上で、次の時代へ進める」


隼人は目を閉じ、短く云う。


「行け、佐竹」


扉に向かう佐竹の背に、かすかな声が届く。


「……大事にしろ」


佐竹は振り返らずに答えた。


「云われるまでもありません」


扉が閉まる。

CEO執務室には、もはや過去だけが残された。



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