暁に星の花を束ねて
火を畳む者
湾岸第三区・カグツチタワー外周。
夜。
雨は細い針のように降りしきり、東京湾の波は冬の風に掻き乱されていた。
巨大企業GQTの象徴、カグツチタワーは、もはや燃え尽きた巨影に過ぎなかった。
照明の半分は落ち、警備ドローンは自律制御を失い漂っている。
逃走中の紅蓮院宗牙の最後の姿をここで確認したと、国際監査院(IIO)は報告していた。
タワー内部・緊急脱出口。
赤茶の髪を雨に濡らしながら、紅蓮院宗牙は無言で非常通路を進んだ。
すでに暁烏真澄、東アナスタシアは公安に拘束されている。
しかし爬虫類めいた瞳には一切の怯えはなかった。
「……滑稽だな」
嗤うように呟く。
「世界は火の在り処を恐れながら、結局は私に救いを求める」
GQTの破綻は世界市場を揺らし、各国政府は混乱の制御に追われている。
皮肉にも宗牙は今こそ、世界を揺らす価値を持っていた。
背後で金属音。
宗牙の足が止まる。
「包囲完了。逃走ルートなし」
低く響く機械音声。
階段の上から黒い影が降りてきた。
『骸隠』ではない。
国際監査院とSHTの合同拘束作戦。
公安部隊とSHT影班により、すでに壊滅したはずの宗牙の精鋭部隊ではなく、国際監査院の特殊拘束部隊『110-Z』だった。
濃紺のシールドスーツに、量子制御式の拘束銃。
完全武装の六名が通路を塞ぎ、宗牙に向け銃口を向ける。
「紅蓮院宗牙。
量子貿易法違反、ナノ兵器拡散、企業破壊活動の主導者として拘束する」
宗牙は雨粒を払うように肩を揺らし、低く息を吐いた。
「……戦争を止めるための兵器に、罪とは滑稽なものだな」
通路の照明が一斉に落ちる。
瞬間、宗牙の足元に黒い影が滲み上がった。
影ではない。
粒子化したナノ刃群。
宗牙が指を鳴らした瞬間、刃群が四方に散り、拘束部隊のシールドを切り裂く。
「囲む程度で、私を止められると思ったのか」