暁に星の花を束ねて

世界への宣告

夜が一度明けてもなお、世界が答えを出せないまま迎えた時間帯だった。


スクナヒコナ・テクノロジーズ本社
公式就任発表・グローバル会見


本社アトリウムは、いつになく張り詰めた空気に包まれていた。

巨大スクリーンには

『SPECIAL ANNOUNCEMENT(重要なお知らせ)』の文字。

国内外の通信社、国際監査院の代表、主要株主、SHT全社員。

数万人が、各地で息を潜めている。

騒動の影を引きずったままの世界が、この瞬間だけは同じ一点を見つめていた。

舞台裏。

葵はそっと胸に手を当てる。
緊張に手が震える。

その隣には片岡。
資料を持つ手が珍しく汗ばんでいた。

「……大丈夫ですよ。彼は、こういう場が一番強いです」

「でも、まだ体が……」

「あれでも全快じゃないと出ないと言い張る男です。
……心配するなら、倒れた時に肩を貸す準備だけしておいてください」

葵は小さく頷いた。

カーテンの向こうでライトが強くなる。

呼吸が止まる。

アナウンスが響く。

「スクナヒコナ・テクノロジーズ──新最高経営責任者(CEO) 佐竹 蓮」

カーテンが開く。

ステージに現れたその姿に、会場全体が揺れた。

戦略部門の黒いスーツではなく、身にまとっていたのは、深い濃紺のスリーピース。

黒よりもわずかに光を含み、威圧ではなく重力として空気を支配する色。

ジャケットの下には同色のベスト。

引き結ばれたネクタイは無駄な装飾を排した単色で、
白いシャツだけが、その存在を際立たせている。

その佇まいは戦略を語る者のそれではない。
勝つために前へ出る人間でもない。

ただ、決断の重さを引き受ける者の姿だった。
葵は、はっと息を呑む。


この人はもう、誰かの影に立つ男ではない。
世界の前に立つ、影そのものなのだと。


その歩みは静かで迷いがない。
確かな重力だけが周囲の空気を変えていた。

もう戦略部長ではない。

世界が待っていた影の執行者として、舞台の中央に立っている。

佐竹はゆっくりと演台に手を置き、黒い瞳で会場を見渡した。


「本日、スクナヒコナ・テクノロジーズCEOに任じられた、佐竹蓮です」


低く、深い声。

その瞬間、世界中のチャンネルが一斉に録画へ切り替わった。

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