暁に星の花を束ねて
佐竹の視線が、まっすぐその記者を捉えた。
「承知の上です」
短い一言。
「だからこそ、私はこの場に立っています」
会場が、息を呑む。
「治療薬は、現在も検証段階にあります。
その有効性とリスクを、最も正確に把握する立場にある人間が自ら経過を公開することは、倫理に反すると考えていません」
一拍。
「むしろ、責任の一部だと考えています」
今度はアジア系の通信社がマイクを取る。
「シンガポール国際通信です。
監禁という重大事件の被害者でありながら、同時に、あなたはSHTの最高責任者になりました。被害者であることが、今後の経営判断に影響を与える可能性は?」
鋭い。
同情を装った、冷酷な質問だった。
佐竹は、首を横に振った。
「影響はありません」
即答だった。
「私は被害者として、この席に座っているのではない」
声に、わずかな硬さが宿る。
「責任者として座っています。
個人の感情を、経営判断に持ち込むことはありません」
最後に、国内メディアの記者が立つ。
「日本経済通信です。
……率直に伺います。今回の一連の事件を経て、あなたは恐怖を感じましたか」
会場が静まり返る。
答えによっては、印象が決定づけられる問いだった。
佐竹は、少しだけ視線を落とす。
そして──。
「感じました」
正直な声。
「だからこそ、この場に立っています」
顔を上げる。
「恐怖を知っている人間でなければ、恐怖の中で働く人間を守ることはできません」
それ以上は云わなかった。
司会者が静かに告げる。
「以上で、質疑応答を終了します」
佐竹は深く一礼した。
拍手はまだ起きない。
しかし誰もが理解していた。
この男は弱さを隠して立っているのではない。
弱さを抱えたまま、立っているのだと。