暁に星の花を束ねて
統合と決断
──就任会見から日付が変わって間もない頃。
スクナヒコナ・テクノロジーズ本社。
巨大ホログラムには、世界各国の証券指数が静かに浮かび上がっていた。
前夜まで赤い警告色に染まっていた数値は、今は確実に緑へと戻りつつある。
アジア市場──+1.8%
欧州市場──+0.9%
北米市場──トレンド安定
国際経済紙は、ほぼ同一の見出しを打っていた。
『影が市場を支えた──SHT新CEO・佐竹蓮』
SHTは再び世界の受け皿になった。
そしてその判断の中心にいる男は、すでに次の局面を見据えていた。
経営執行委員会・第零会議室、深夜。
窓の外には眠らない都市の光。
しかし今、この円卓に夜を気にする者はいない。
六角形のテーブルを囲むのは影班、片岡一真、朝倉楓、馬渡遼、八重樫澪。
戦略、調和、医療、リスク管理。
SHTの中枢が初めて「佐竹CEO」のもとに集まっていた。
佐竹は静かに席に着き、一つのファイルを開く。
ホログラムに浮かび上がった文字。
『GQT統合計画』
室内の空気がわずかに引き締まった。
片岡が、低く息を吸う。
「……本当に、やるんですね」
佐竹は顔を上げず淡々と答える。
「世界は今、火の残骸を押し付け合って疲弊している」
視線が円卓を一周する。
「受け止められるのは、SHTだけだ」
朝倉が腕を組む。
「GQTの研究施設は十七。ナノ兵器関連だけで三十二。
全部抱えるには、リスクが大きすぎます」
「愚か者の遺産ほど、価値は高い」
佐竹は即答した。
「壊れた武器ほど、正しい手に渡った時に意味を持つ」
静まり返る会議室。
それは反論ではなく、この男の思考を理解しようとする静寂だった。
佐竹は続ける。
「統合は三段階で進める」
第一段階。
GQT全研究施設をSHT監査下に置き、ナノ兵器関連の稼働を即時停止。
残党の捕縛は国際監査院と共同で行う。
第二段階。
GQTの量子貿易網をSHTインフラに移行。
物流、通貨、通信を管理下に置く。
第三段階。
GQT人材の選別と再配置。
再利用可能な人材は新設部署へ。
危険因子は国際監査院へ引き渡す。
「名目上の子会社ではない」
佐竹は、はっきりと云った。
「実質的な内部機関として再編する」
朝倉が小さく笑う。
「……完全な逆転合併ね」
「飲めるから飲むんじゃない」
佐竹の声は低い。
「必要だから飲む。世界が沈まんようにな」