暁に星の花を束ねて
その時。
静かにマイクを入れたのは、調和医療応用課長・八重樫澪だった。


「一つ、確認させてください」


全員の視線が集まる。


「GQT関連施設の凍結対象の中に、現在も治療継続中の患者がいます」


空気が変わった。


「実験体ではありません。既存ナノ医療の途中段階にあり、切り離せば致死率が跳ね上がる人々です」


財務担当が慎重に口を開く。


「しかし、それはGQT側の……」
「違います」


八重樫は即座に遮った。


「彼らはもう、SHTの技術でしか生きられない」


馬渡が静かに頷く。


「倫理リスクですね」
「はい」


八重樫は迷いなく続ける。


「一人でも死ねば、統合と安定という言葉は空洞になります」


しばし言葉を失う面々。
その沈黙を破ったのは、佐竹だった。


「──引き継げ」


即断。


「GQT由来患者は全員、SHT管理下に置く。
治療は継続。
政治的・法的責任は、こちらで持つ」



八重樫は一瞬だけ目を見開き、
深く一礼した。


「……了解しました」


馬渡が、穏やかに微笑む。


「これで、守るが具体化しましたね」


佐竹は円卓を見渡す。


「情に流れたわけじゃない」


一拍。


「命を守れない組織に、市場も国家も、未来を預けない」


誰も、反論しなかった。
朝倉が小さく肩をすくめる。


「……就任初日から、厄介なCEOね」
「誉め言葉として受け取っておく」


佐竹は淡々と云った。


「続けよう。切らないために、どこを切るかだ」


片岡が画面を切り替える。


「GQT関連資産の凍結状況と、各国政府との調整進捗を共有します」


会議は再び動き出す。

それはもう数字だけの会議ではなかった。
世界最大級の企業が、意志を持った瞬間だった。

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