暁に星の花を束ねて
人の痛みを記録する花たち
会議室を満たしていたのは、数字と理屈だけではない。
そこにあったのは「切らない」と決めた意志そのものだった。
その決断が現実として意味を持つかどうかは、
この円卓ではなく、別の場所に委ねられている。
命を救えるか。
守ると云ったものを、本当に守れるか。
答えは、紙の上にはない。
会議も終盤に近づいたその時間──。
摩天楼のさらに奥。
都市の騒音から切り離された一角で、ひとつの温室が静かに光を灯していた。
そこでは今も、数字にならない命のための研究が続いている。
温室は以前よりも静かだった。
正確には音が消えたわけではない。
空調の低い唸り。
培養槽の微かな循環音。
照明の冷却音。
それらすべてが秩序をもってそこに在る。
星野葵は白衣の袖を軽く整えながら、中央の培養ラックを見つめていた。
『ステラ・フローラ』。
彼女が見出し、育て、そして守り続けてきた植物。
かつては、奇跡と呼ばれていた。
だが今は違う。
奇跡は再現できなければならない。
それが研究者としての、彼女の結論だった。
「……ここまで、来たんだね」
独り呟くその声は小さい。
だが、その視線は揺れていなかった。