暁に星の花を束ねて
SHTとGQTの統合は、単なる企業合併と呼ばれる種類の出来事ではなかった。
それは後年「世界の構造が、静かに書き換えられた瞬間」と評されることになる。
それまでのスクナヒコナ・テクノロジーズは、すでに世界市場のおよそ三分の一に影響力を及ぼす巨大企業であった。
量子貿易。
医療ナノ。
エネルギー制御。
情報物流。
「触れていない分野を探すほうが難しい」
そう云われる存在であることに、異論を挟む者はほとんどいなかった。
しかしSHTとGQTの統合によって、状況は質的に変化する。
ヒノカグツチ未来交易戦略機構──GQTが掌握していたのは表に出ることのない、もうひとつの市場だった。
国家をまたぐ量子貿易網。
公表されない研究施設。
影で循環する金融ルート。
そして、制御されぬまま蓄積されてきたナノ・バイオ技術。
それらも一括して、SHTの管理下に置かれることになる。
結果としてSHTが直接あるいは間接的に影響を及ぼす市場は、世界の二分の一に達した。
否。
より正確に云えば、
「市場に存在する選択肢の半分を握る企業」。
価格を動かすこともできる。
技術の流れを止めることもできる。
国家の判断を、一晩遅らせることさえ可能だった。
もはやSHTは巨大企業と呼ばれる枠に収まる存在ではない。
国家でもない。
宗教でもない。
軍事同盟でもない。
世界の均衡装置。
それが倒れれば市場は連鎖的に崩れる。
それが動けば各国政府は反射的に身構える。
それが黙すれば、世界は理由を探し始める。
そして、その中心にいたのは武器を振るわない男。
独裁を宣言しない男。
ただ「制御する責任」を引き受けた男。
佐竹蓮。
彼が動くかどうかで火は再び燃えることもあれば、永遠に封じられることもある。
世界はひとりの男に期待しているのではない。
恐れているのでもない。
預けているのだ、影に。
そしてその影が崩れないことを。
世界は静かに動いていた。