暁に星の花を束ねて
そのやりとりを、佐竹は一切止めなかった。
むしろ。


「帰りも一緒だぞ。夕食はどうする。会議は入れてない」



耳元に吹き込まれた熱い吐息に、葵の肩が小さく跳ねる。

八重樫課長や結衣の視線があるというのに、佐竹は隠そうともせず、葵の耳たぶを薄い唇でかすめるようにして囁いた。


「佐竹さん、あの……みんな見てるから……」


葵が上目遣いで小声で抗議するが、佐竹はそれを気にするどころか、空いた方の手で葵の顎を優しく上向かせた。

周囲の空気が、CEOとしての冷徹な仕事モードから、一人の男としての独占欲に満ちた熱を帯びていく。


「見ていればいい。これが現実だ」
「……っ」


逃げ場を塞ぐような低い声。

佐竹の瞳にはオフィスで見せる鋭い光とは違う、もっと暗くて深い、葵を飲み込もうとするような欲が滲んでいた。


「外食もいいが……。家でゆっくりお前と過ごしたい」



そのまま親指で葵の下唇をなぞり、わずかに押し下げた。


「……今夜は長くかかるぞ」

「ご、ごはんの話ですよねっ!?」



パニックになる葵の頬に、蓮がゆっくりと指を滑らせる。


その指先の感触と視線の熱さに、葵は足の力が抜けそうになる。

八重樫は静かにコーヒーを飲み干し、結衣はもはや直視できずに両手で顔を覆いながら、指の間から必死に二人を観察していた。


「……葵」


佐竹がさらに顔を近づけ、二人の唇が触れ合う寸前で止まる。


「今日は誰にも邪魔はさせない。いいな?」
「……はい……」


抗えるはずもなかった。

純真無垢な天使を完全に「同居」という腕の中へ引き寄せた佐竹は、満足げに口角をわずかに上げると、そのまま彼女の体を引き寄せた。





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