暁に星の花を束ねて
SHT本社 調和部門棟。


「というか、やっと一緒に暮らすようになったのねぇ」


朝のミーティングが一段落した後、八重樫澪課長はコーヒーカップを手に、呆れたようにため息をついた。


「考えが昭和どころか大正よ」


コーヒーをすすると、淡々と続ける。

その向かいで葵はマグカップを両手で包み込み、目を丸くした。


「え……そ、そうですか……?」
「そうです」


即答だった。
八重樫は肘をつき、葵を横目で見る。


「婚約済み。ほぼ毎週末同じ部屋。それで別居を続けてたほうが不思議だわ。
しかも相手、CEOよ?」

「そうだよ、葵ちゃん!」


ひょいと会話に入る結衣。


「佐竹CEO、葵ちゃんが寮に帰っちゃうたびにさ、きっとすごい顔してるよ〜」

「……え?」

「本当は、帰す気がない男の顔!」


葵の耳が、みるみる赤くなる。

「そ、そんな……」

その瞬間。

「おい」

低い声が背後から落ちた。

三人が振り返ると、そこに立っていたのは佐竹蓮本人だった。

スリーピーススーツは完璧。

表情も、いつもの冷静沈着なCEO。

……だが。


「……妙な誤解を与える云い方はやめろ」


そう云いながら自然すぎる動作で、葵の背中に手を回す。


ぴたり、と。

「ひゃあ〜♡」
「誤解?」


結衣は自然な仕草に甘い悲鳴をあげ、八重樫は片眉を上げる。


「事実ですよね?」
「事実でも、余計な強調は不要だ」


八重樫は一瞬、視線を落とし、次の瞬間には静かに結論を出した。

「つまり」

ぱたん、と資料を閉じる。


「帰したくない。正式な同居、ですね」


「そうだ」


短く、即答。


葵が顔を赤くさせる。


「……あ、あの、佐竹さん……」


葵の肩に回した手に、わずかに力がこもる。


「彼女はおれの生活の中心だ」


しん、と一瞬、場が静まった。
次の瞬間。


「……はぁ〜……」


八重樫が天を仰ぐ。


「もういい。この人、完全に溺れてるわ」
「ですね〜♡」


八重樫は淡々と頷き、結衣は嬉しそうだ。


「お幸せに」
 

葵は顔を真っ赤にしながら、
それでも小さく、ぺこりと頭を下げた。


「……ありがとうございます……」


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