暁に星の花を束ねて
仕事帰り、食材の買い物をした二人─。
キッチンに、じゅう……と、心地いい音が広がる。
フライパンの上で薄切りの豚肉が返され、生姜の香りが立ち上った。
「いい匂いですね」
葵はフライパンを傾けながら、少しだけ照れたように笑う。
「生姜焼きにしました。疲れてるかな、と思って」
「……当たってる」
背後から即答が返る。
佐竹は腕を組み、その様子をじっと見ていた。
キャベツを丁寧に千切りにし、味噌汁の鍋を火にかけ、手際よく作っている。
「慣れているな」
「一人暮らしが長いですから」
葵はさらりと答える。
「それに、こういうごはんが好きなんです」
フライパンに合わせ調味料を回し入れる。
じゅっと音が強くなり、照りが肉に絡む。
「できました」
食卓に並べられたのは特別じゃない、でも落ち着く献立。
しょうがやき。
山盛りのせん切りキャベツ。
湯気の立つおみそ汁。
炊きたての白いごはん。
「いただきます」
佐竹は久しぶりに、その言葉を口にしたようだった。
一口。
箸が止まる。
二口目。
無言。
葵はそっと様子を窺ってから、小さく聞いた。
「……どうですか?」
佐竹は、箸を置かずに答える。
「うまい」
短いが、はっきりと。
「味が、ちょうどいい」
葵の胸が、ほっと緩む。
「よかった……」
「キャベツも、いい」
「え?」
「肉だけじゃない。こういうのがあると、落ち着く」
何気ない一言だった。
だがそれは、生活を受け入れた言葉でもある。
「……また、作ってほしい」
葵は一瞬、目を丸くし、しかし次の瞬間。
うれしそうにふわっと笑った。
「はい。いつでも」
佐竹はその返事に何も云わず、黙々とごはんを食べ続ける。
だがその背中はどこか少しだけ、緩んでいた。
この家で初めて囲む夕食。
それは祝杯でも、記念日でもない。
ただ帰ってきて、食べるごはんだった。
食後。
佐竹は無言で立ち上がり、食器をまとめてキッチンへ向かった。
「……あ、わたしも」
葵が慌てて立ち上がろうとすると、背中越しに低い声が返る。
「いい。あとはおれがやる。作ってもらったんだから、当然だ」
「でも……」
「座ってろ」