暁に星の花を束ねて
SHT調和部門・ミーティングルーム。
資料を閉じながら、八重樫澪は呆れたように云った。
「それで? 戦前生まれの交際をしているあの二人は、ようやく名前で呼び合えるようになったのね」
「はいっ!」
即答したのは結衣だった。
「昨日ですよ、昨日! ついにですよ! 尊すぎません!?」
「婚約済みで同居開始。それで昨日って……」
八重樫はため息をついた。
「……遅いわよ」
八重樫はコーヒーを一口飲み、淡々と切り捨てる。
「でもでも!」
結衣は身を乗り出す。
「呼び方変わった瞬間、佐竹CEO、完全にフリーズしてましたから!」
「でしょうね」
即答。
「名前は距離を詰める装置よ。あの人、戦略は得意でも、感情の急接近には耐性がない」
「じゃあ……」
結衣がにやりと笑う。
「次は何ですか? あだ名? それとも、おかえりとただいまでしょうかね?」
八重樫は少し考え、首を横に振った。
「いいえ」
資料を整えながら、静かに結論を出す。
「次はたぶん……無意識に名前を呼んでしまう段階ね」
「うわぁ……!」
結衣が両手で口を押さえる。
「それ、本人たちが一番ダメージ受けるやつ……!」
「ええ」
八重樫は、窓の外に視線を向ける。
「……でも、それでいいのよ」
少しだけ、声が柔らぐ。
「ようやく……守る対象じゃなく、一緒に生きる相手になったんだから」
その頃、別フロア。
「……葵」
無意識に名前を呼び、佐竹は一瞬、自分で固まっていた。
「はいっ」
葵が笑顔で振り返る。
「……いや」
小さく咳払い。
「……ステラ・フローラの資料を、提出してほしいだけだ」
「はい、わかりました」
何でもないやりとり。
だがその呼び方はもう、元には戻らない。
SHTの中で一番静かで一番確実な変化が、今日も進行していた。
資料を閉じながら、八重樫澪は呆れたように云った。
「それで? 戦前生まれの交際をしているあの二人は、ようやく名前で呼び合えるようになったのね」
「はいっ!」
即答したのは結衣だった。
「昨日ですよ、昨日! ついにですよ! 尊すぎません!?」
「婚約済みで同居開始。それで昨日って……」
八重樫はため息をついた。
「……遅いわよ」
八重樫はコーヒーを一口飲み、淡々と切り捨てる。
「でもでも!」
結衣は身を乗り出す。
「呼び方変わった瞬間、佐竹CEO、完全にフリーズしてましたから!」
「でしょうね」
即答。
「名前は距離を詰める装置よ。あの人、戦略は得意でも、感情の急接近には耐性がない」
「じゃあ……」
結衣がにやりと笑う。
「次は何ですか? あだ名? それとも、おかえりとただいまでしょうかね?」
八重樫は少し考え、首を横に振った。
「いいえ」
資料を整えながら、静かに結論を出す。
「次はたぶん……無意識に名前を呼んでしまう段階ね」
「うわぁ……!」
結衣が両手で口を押さえる。
「それ、本人たちが一番ダメージ受けるやつ……!」
「ええ」
八重樫は、窓の外に視線を向ける。
「……でも、それでいいのよ」
少しだけ、声が柔らぐ。
「ようやく……守る対象じゃなく、一緒に生きる相手になったんだから」
その頃、別フロア。
「……葵」
無意識に名前を呼び、佐竹は一瞬、自分で固まっていた。
「はいっ」
葵が笑顔で振り返る。
「……いや」
小さく咳払い。
「……ステラ・フローラの資料を、提出してほしいだけだ」
「はい、わかりました」
何でもないやりとり。
だがその呼び方はもう、元には戻らない。
SHTの中で一番静かで一番確実な変化が、今日も進行していた。