暁に星の花を束ねて
『調和部門 ラボエリア』
案内されたラボは、静寂と温度管理の行き届いた空間だった。
中央には大型観察ブースが鎮座している。
その中でひときわ目を引く植物が淡く青白い光を放ち、咲いていた。
《ステラ・フローラ》
光導管が花弁の内側を走り、ゆっくりと脈動している。
まるで呼吸をしているかのように。
「……これが君の研究か」
馬渡がガラス越しに目を細め、静かに問う。
その声音には明らかな興味と、わずかな驚きが混じっていた。
「はい。星の光に反応する遺伝子を組み込んでいて……ナノ毒素が近づくと、その導管の動きが変わるんです」
葵はブースに近づき、ガラスに触れそうになったところで、ふと手を止める。
その瞬間、ステラ・フローラがわずかにこちらへ傾いた。
馬渡はじっとその様子を見ていたが、視線が鋭くなるのを彼女は肌で感じた。
こんなふうに正面から見られたのは初めてだった。
(父も周囲の人間には話さなかった。きっと、わたしと同じだったんだ)
昔から花の反応を誰かに話すたびに気味悪がられた。
植物がそんなことをするはずがない、と笑われるか、あるいは遠巻きにされた。
だからいつの間にか、自然と黙るようになっていた。
しかしこの空間では否定も偏見もない。
ただ純粋な興味と理性で、花が見られていた。
「……なるほど。君の体温や匂いを記憶しているのか。これは植物というより、生きた装置だな」
言葉の端に感嘆が滲んだ。
「開花条件に君自身が組み込まれているとすれば、代替不可能だ。面白い。君と、この花ごと観察してみたくなったよ」
その言葉に、葵はくすぐったそうに眉をひそめた。
「観察対象って、なんか落ち着かないです……」