暁に星の花を束ねて
桂木さんという人物
ラボ隅 資料棚の前
「いやー……ほんと戻ってくれてよかった……」
桂木室長がぐったりと椅子に沈み込み、胃薬の小瓶を振っている。
「最初から有望な新人って聞いてたのに、初日でいなくなるなんて……本当に泣きそうでしたよ……」
「本当にすみません」
葵が恐縮しきりに頭を下げると、桂木は力なく笑う。
「いえいえ、私だってかつて、佐竹部長に一言注意されて三日寝込みましたから……。あれは人じゃないんです、思念体です、災害指定クラス……」
「ふふ」
思わず吹き出してしまう。
「でも、ちゃんと見てくれてると思います。厳しいけど……」
「そうでしょうね」
桂木は真顔になってうなずいた。
「怖い人ほど案外、期待を言葉にしないから。だからこそ自分で掴むしかない」
彼は懐からそっと、胃薬のシートを一枚破って差し出した。
「歓迎の印、ということで。お守り代わりに持っててください」
「はい!」
葵は、少しだけ目を潤ませながら笑った。
自分の居場所は、まだ定まっていない。
しかしここで咲いた花の隣には、確かに誰かの視線がある。
それが叱責であれ、観察であれ、信頼の種は確かにそこに蒔かれていた。
SHTでの物語は、静かに、確かに動き出していた。