暁に星の花を束ねて

午後になり。

一通り展示を巡り終えたあと、ふたりは休憩のため会場内のカフェブースへと向かう。

ブースの一角に設けられた簡易カフェは、木目調のテーブルと観葉植物が点在する落ち着いた空間だった。
空調はよく効いており、外の熱気とは別世界のようにひんやりと静かだ。

ふたりは注文を済ませ、テーブルについた。
湯気をたてる紅茶をの香りに目を細め、ひと息つく。

今日はあの金属のような匂いはしない。
ということは、佐竹からではなくあのコーヒーに何か
入っていたということだろうか。

改めて目の前の上司をみる。

不思議だった。

(入社式のスピーチを行なった人。
いきなり怒られて脱走も見抜かれた、そんな人物と一緒にお茶なんて……)

社会に出るとはこういうことなんだろうか。

葵はそっと目の前にいるその人を観察した。

佐竹はカップを手に取りながらも端末から視線を離さず、淡々と資料を整理している。

その横顔には戦略部門部長という肩書きも、社内で噂される冷徹さも見えなかった。

手袋とスーツの袖口から覗く手首。
手袋のない素肌。
少しラフにまとめられた髪。
社内では決して見られない姿が、そこにあった。

(普通の人だなぁ)

社外に出るというのは肩書きを脱ぐということかもしれない。
そして自分もまた、そういう人として見られているのかもしれない。
葵は自分の姿を意識して、そっと膝の上で手を組み直した。


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