暁に星の花を束ねて
「研修期間にキメラ型病原体の設計に関する講義があるって聞いたんだよね……あなたは興味ある?」

「もちろんあるわ。特に、遺伝子ターゲティング技術を用いた病原性の制御機構には注目しているし……。倫理的な問題はさておき、戦略的な優位性を確立するためには不可欠な研究だと思うの」

「そうだよね。ナノマシンによる体内侵入経路の最適化も重要だし。宿主の免疫システムをいかに回避するかが鍵になるもんね」
「うんうん。その点では国際ナノ生命工学大学の神楽坂教授の最新論文が参考になるかも。確か、エンベロープタンパク質の改変に関する画期的な発見があったはずだわ」

 
 周囲の会話はどれも専門的すぎて、葵には一言も理解できるものがない。
 単語の羅列が頭の中で意味を持たず、まるで異世界の呪文を聞いているかのようだった。

 汗ばんだ手で会社の資料を握りしめる。
 
 自分は間違いなく場違い……この場から逃げ出したかった。


 
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