暁に星の花を束ねて

花の恋バナ

昼下がりの中庭。
温室の脇にあるベンチで、初夏の陽射しがふたりの肩を照らしていた。

ランチボックスの蓋を開き、桐生結衣が興奮している。

「えぇぇ〜っ!? ふたりきりで展示会!? それってもうデートじゃん! ねぇねぇ、部長ってどんな顔してた? まさか手とか握っちゃったとか!? きゃー、絶対そうでしょ! あ〜もう、話ぜんぶ聞かせてぇ〜!」

箸を小刻みに振り回しながら、結衣は声を弾ませる。

「ちょ、ちょっと待って、そういうのじゃないから……!」

葵は慌てて両手を振るが、その頬はほんのり色づいていた。

「えぇ〜? そういうのじゃない顔してるよ〜、ほら耳まで赤い!」

結衣が身を乗り出し、覗き込むように指を差す。

「ひ、日焼けだもん!」

葵は慌てて耳を押さえてそっぽを向いた。

「ふふふ〜ん、どうだか〜。で、部長はどんなふうに案内してくれたの? 横にぴったりくっついて……とか?」

結衣はわざと肩を寄せてみせ、にやにや笑う。

「……展示の説明してくれただけだよ……」

葵は口をとがらせ、持っていた箸で弁当の隅を突いた。

「はいはい、はいはい。あ〜、いいなぁ〜、そんなイケメン上司とふたりで外回りとか贅沢〜」

「だから、外回りじゃなくて展示会……」

言いながらも葵の声は小さく、言葉の終わりはすぐ風に溶けていった。

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