暁に星の花を束ねて
低く艶やかな声が、薄暗いラウンジの空気を鋭く切り裂いた。

それに応じたのは男の背後に静かに控える女。
白銀のボブカットと灰色の瞳。

淡い香の残る黒衣のスーツを纏い、揺るぎのない視線を宗牙に向ける。

名を東アナスタシア(あずま アナスタシア)。

火之迦具土シンジケート『骸隠(むくろがくれ)』の戦略補佐。

元国家情報局の分析官として名を馳せた才媛にして、今や紅蓮院宗牙の右腕とも称される冷徹な策士だった。

表向きには「紫」の名で諜報部門の現場責任者を演じているが、実際には骸隠の中核を握る存在である。


「……名ばかりの規定。CEO直属の本部長職は形式上空席という詭弁に過ぎません」

その声音は低く冷ややかで、まるで凍てついた刃のようだった。

「そう、それが隼人の浅知恵というわけだ」

宗牙はゆるやかに立ち上がり、広がるメガシティの夜景を見下ろした。

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