暁に星の花を束ねて
「佐竹さーん!」

思わず名を呼ぶと彼は無言で立ち止まり、こちらに顔を向け近づいてくる。
黒シャツに黒のスラックス、そしていつもと同じ黒手袋。
軽装でありながらも、彼のまとう空気は一切の涼しさを拒んでいた。

「視察ですか? それとも、花見?」

冗談めかした問いかけに、佐竹はわずかに眉を動かしただけで答える。

「おまえが脚立から落ちて怪我でもしたら、管理責任を問われるからな」

「落ちません。わたし、木登りだって得意なんですから」

ぷいと顔を背けたその瞬間だった。
ザリッと、乾いた音が空気を裂く。
佐竹がふと腕を払った拍子に、薔薇の棘がシャツの袖口を裂いたのだ。

「……あっ、今、棘に引っかかりましたよね!?」

脚立から軽やかに飛び降りた葵が、迷いなく彼の腕に手を伸ばす。
だが佐竹はひらりと手を引き「問題ない」とだけ呟く。
しかし袖の隙間からは、赤い一筋が静かににじんでいた。

「薔薇のトゲは甘く見たらダメです!」

その言葉に彼女の普段とは違う芯のある声が滲む。
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