暁に星の花を束ねて
「治療してくれ」

佐竹がそう口にしたとき葵の動きが止まる。
その声音には命令ではない、確かな信頼の重みがあった。

「……はい」

彼女は静かに頷き、棘が刺さっていないか確認すると菌ガーゼを取り、彼の腕にそっと触れる。

「確かに、こそばゆいかもな」

ぽつりとつぶやいたその言葉を訊きながら、葵は動きを止めた。

その背から左わき腹にかけての大きな傷跡。
古い手術痕のような痕跡。
そこに、見覚えのような既視感が走った。

(え? この傷……!?)

胸の奥が急にざわつき、遠い日の温室の光景が突然鮮明に蘇った。

何度も夢で見る血に倒れた青年を必死に看病する自分。

「お兄さん」と呼んで、震える小さな手で握りしめたあの温もり。
葵の中で、十年前に失われた記憶が呼び起こされる。

(……ど、どうしてこんな傷が佐竹部長に……!? それとも偶然?)

体の奥で脈が速くなりすぎて手が止まる。
額に汗が滲み、胸の鼓動が耳に響いた。

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