暁に星の花を束ねて
 優しい眼差し、柔らかい口調。
 
佐竹のスピーチはどこまでも洗練されており、聴衆の意識を一瞬たりとも逸らさせなかった。

特に時折見せる自信に満ちた微笑は新入社員たちのみならず、多くの女性社員の頬をほんのり赤らめさせている。

あの深い目で見つめられたら、きっと多くの女性を魅了してしまうだろう……約一名を除いては。

(わたしには、お兄さんがいるもの)

葵には子供の頃から想い続けているひとりの男性がいる。
名前すら知らぬまま、たった一度の邂逅で深く心に刻まれた人物。

もう二度と逢えないかもしれない。

しかし十年の時が過ぎても、今も胸の奥でその面影を大切に抱いていた。

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