暁に星の花を束ねて
─話は戻り─
本来ならばスクナヒコナテクノロジーズのCEOである少名彦 隼人(すくなひこ はやと)が挨拶をする予定であったが、体調不良とのことで急遽、佐竹がスピーチを行ったのである。
(こんなに大勢の人が見ているなか、急遽スピーチだなんて。わたしには到底できないわ……)
葵はスピーチに大いに心を動かされ、気がつけば拍手を送っていた。
心からの素直な感動だった。
礼をし壇上を去る間際、佐竹の視線が聴衆の中をゆっくりと動き、一瞬、葵の目を捉える。
そして彼は微かに唇の端を上げ、何かを知っているかのような笑みを浮かべた。
……ように葵には見えたのだが……。
(そんなわけ、ないよね)
気のせいだろうと自分に言い聞かせたが、胸の奥には小さなざわめきを残した。
スクナヒコナテクノロジーズにはいくつか部門が展開されているが、戦略部門は全部門を統括し、CEOと数名の執行役員が所属する経営執行委員会と直結している。
三分の一を握る企業における影の舵取り。
企業戦争や技術覇権をも左右する、まさに頭脳の中枢──それが戦略部門である。
その部門の長が佐竹蓮(さたけ れん)だ。
若くしてその地位に就いた彼は、創業者の血を引く後継者候補を差し置いて、次期CEOの最有力と注目されている。
陰では『影の支配者 氷の参謀』とすら呼ばれていた。
(わたしには、ただの立派な人にしか見えないけど……憧れるな)
入社式を無事に終えた帰り道、まだ興奮が治まらない葵だったが、ふと本社ビルを振り返る。
葵がSHTに入社できたのは、大学時代の研究がきっかけだった。
彼女の扱っていた植物が薬用植物研究部門の目に留まり、スカウトを受けることになったのである。
(わたしの研究、役にたってくれたら嬉しいな)
心の中に棲む「初恋のお兄さん」と、まだよく知らない「氷の参謀」。
対照的なふたりの面影が、そっと彼女の胸に並んでいた。
本来ならばスクナヒコナテクノロジーズのCEOである少名彦 隼人(すくなひこ はやと)が挨拶をする予定であったが、体調不良とのことで急遽、佐竹がスピーチを行ったのである。
(こんなに大勢の人が見ているなか、急遽スピーチだなんて。わたしには到底できないわ……)
葵はスピーチに大いに心を動かされ、気がつけば拍手を送っていた。
心からの素直な感動だった。
礼をし壇上を去る間際、佐竹の視線が聴衆の中をゆっくりと動き、一瞬、葵の目を捉える。
そして彼は微かに唇の端を上げ、何かを知っているかのような笑みを浮かべた。
……ように葵には見えたのだが……。
(そんなわけ、ないよね)
気のせいだろうと自分に言い聞かせたが、胸の奥には小さなざわめきを残した。
スクナヒコナテクノロジーズにはいくつか部門が展開されているが、戦略部門は全部門を統括し、CEOと数名の執行役員が所属する経営執行委員会と直結している。
三分の一を握る企業における影の舵取り。
企業戦争や技術覇権をも左右する、まさに頭脳の中枢──それが戦略部門である。
その部門の長が佐竹蓮(さたけ れん)だ。
若くしてその地位に就いた彼は、創業者の血を引く後継者候補を差し置いて、次期CEOの最有力と注目されている。
陰では『影の支配者 氷の参謀』とすら呼ばれていた。
(わたしには、ただの立派な人にしか見えないけど……憧れるな)
入社式を無事に終えた帰り道、まだ興奮が治まらない葵だったが、ふと本社ビルを振り返る。
葵がSHTに入社できたのは、大学時代の研究がきっかけだった。
彼女の扱っていた植物が薬用植物研究部門の目に留まり、スカウトを受けることになったのである。
(わたしの研究、役にたってくれたら嬉しいな)
心の中に棲む「初恋のお兄さん」と、まだよく知らない「氷の参謀」。
対照的なふたりの面影が、そっと彼女の胸に並んでいた。