暁に星の花を束ねて
冷たさの奥の向こう
調和部門・昼休み
社員食堂の片隅。
昼休みの喧噪も一段落し、調和部門のテーブルには緩やかな静けさが戻っていた。
葵は意を決し、両課長へ問いかけた。
「……戦略部門の佐竹部長って、改めてどんな人なんですか?」
箸を止めた二人は、一瞬だけ視線を交わす。
どこか禁忌に触れられたような沈黙が落ちた。
「その名の通り氷の参謀だな」
シュロ課長が渋く呟き、コーヒーカップを傾ける。
「冷静沈着、感情を表に出さない。会議では声を荒げる相手を一刀両断にして、その場を一瞬で静まり返らせる。……あれは有名だ」
「論理が緻密すぎるのよ」
八重樫課長が続けた。
「隙がない。甘い幻想を持ち込めば、たちまち凍りつく。だからこそ、彼の言葉ひとつで方針が決まる。多くの理事や課長連中が恐れるのも当然ね」
葵は小さく息を呑む。
思っていた以上に佐竹という存在は異質で、遠い壁の向こうに立っているのだと知った。
まるで強化ガラスの彼方にいる人間のように。