暁に星の花を束ねて
ふと、腕に細い治癒痕があるのに気づく。
棘が深く刺さったときに残る独特の線。

馬渡はわずかに目を細め、ぽつりと呟いた。

「……星野さんですね」

返事はない。

ただ佐竹の左手が手袋を静かに引き直す。

いつもの動作だが、それは何かを隠すための所作にも見える。

馬渡は言葉を重ねた。

「彼女はそろそろ真実に辿り着きますよ……あなたはどうするつもりなんです?」

沈黙。

佐竹は何も答えず、ただ包帯を巻かれるままにしていた。

「感覚をなくして、それでどれだけのことを誤魔化してきたのか……自分でも、もうわからないでしょう?」

馬渡は続けた。
その声には諦めと、そして年上としての責任感がにじんでいた。

沈黙がひとつ落ちる。

「……それでも、進まなければならない」

佐竹は呟くように云った。
どこか静かで、それでいて強情な響き。

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