暁に星の花を束ねて
包帯が結ばれた瞬間、佐竹がぽつりと口を開く。

「ついでに、中和剤をもらいたい」

馬渡の手が再び止まる。

「……間隔が短くなってきてますよね。これ以上は、本当に危険です」

「時間がない」

即答だった。
あまりにも早すぎて、もはや待つことなど選択肢にないのだと知れる。

「……」

馬渡は冷蔵棚から小瓶を取り出す。
遮光ガラスに封じられた青白い液体。

これは馬渡が入社式を欠席してまで調達した薬品だった。

そして葵が気づいた違和感のある匂い─。

「おれが倒れるのが先か。GQTを潰すのが先か」

笑いにもならない声で佐竹が云う。
それは独りごとではなかった。

馬渡は小瓶を差し出し、静かに告げる。

「佐竹部長……いや、佐竹くん。あなたを思う人がいること。忘れないでください」

佐竹は何も云わずに中和剤を受け取った。

その指先はほんの僅かに震えている。

包帯越しに隠されたものが、どれほど深く刻まれているのか。

そう、それを知る者は彼自身すら……。

もう誰もいないのかもしれなかった。


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