暁に星の花を束ねて

ステラ・フローラの約束

夜のルミナリウム・ガーデン。

灯りの落ちた施設内に、ほんのりとした温室の照明が柔らかく広がっていた。

水音。

滴が葉を伝い根元に落ちる。
静寂のなか、ひとりの女性の声が空気を弾ませた。

「よし……よし、これで大丈夫……!」

白衣の袖を肘までまくった葵は、手にしたスプレーノズルをシュッと鳴らしていた。

長くしなやかな花茎の先に丸くふくらんだ蕾。

それはまるで、小さな命が生まれようとしているようだった。

「ふふ、楽しみだなぁ。ねえ、ステラ・フローラ……きっと君は、誰かのために咲く花だよね」

ふと扉が静かに開く音がした。

振り返ると黒のスーツをまとった男がひとり、ガーデンに足を踏み入れていた。

「あ、佐竹さん!」

葵の笑顔がぱっと花開く。

さながら、それだけで温室の空気がひときわ明るくなったようだった。

「見てください、ステラ・フローラに……こんなに大きな蕾ができたんですよ!」

彼女は手元の鉢を指さし、得意げに胸を張った。

「やっぱりSHT調和部門特製の肥料はちがうなぁ〜! この子たちがこんなに喜んでるの、初めてです」

< 91 / 204 >

この作品をシェア

pagetop