暁に星の花を束ねて

命の経費

朝倉は無意識に拳を握り締めていた。
不愉快、という表情が滲みでている。

知ってか知らずか少名彦凛翔は笑顔で続けた。

「必要経費の範囲内ですよ、佐竹部長」

その一言が引き金だった。

佐竹の瞳がまるで氷晶が砕けるように鋭く光を放つ。

その瞬間、朝倉は自らの背筋に冷たいものが這い上がるのを感じた。

思わず息を呑む。

だがそれは燃え上がる激情ではない。
氷点下の怒り。
絶対零度の静かな苛立ちが、この空間を容赦なく支配していく。

佐竹はわずかに唇の端を吊り上げた。
決して愉快そうな笑みではない。

黒曜の瞳は氷のように冷え切り、その奥で静かな怒りと冷笑が鋭く光を放つ。

黒手袋の指先が無駄のない動きで組み直され、椅子の肘掛けを滑るように離れる。

< 99 / 195 >

この作品をシェア

pagetop