#shion【連載中】



 ───夏休み。
 司音の出番が、また来た。
 夏休みの課題、という名の難題を前に、うんうん悩んだあげく、僕はまたしても『SION』を起動していた。


「あのさ、司音……相談があるんだけど」
「おはよう、律。もちろん、何でも言って」
「うちの学校、文化祭があるんだけどさ。1年生は“創作劇”をやるのが伝統みたいで……」
「うん、知ってるよ。毎年記事になってる。1年生なのに完成度が高くて有名なんだよね」
「それでね……」
 僕は苦笑いしながら、司音に打ち明けた

 「テーマ会議で、僕のアイデアが通っちゃって。そしたら脚本グループになっちゃってさ。───あらすじ、書かなきゃいけなくなったの」
「それはすごいね、律。君の感性が、みんなに刺さったってことじゃない?」
「いや、それが……」

 僕は頬をかいて、小さく息を吐いた。

「アイデアっていうか、僕がぽろっと言っちゃったの。“AIが人間に恋をする話とかどう?”って」

 そのときのことを思い出して、僕は顔を赤らめる。
 投票で決まった劇のテーマは『AI』。
 僕は、あくまでフィクションとして、何となく言ったつもりだった。
 でも、クラスのみんながその言葉に「それいいね」って盛り上がってしまって……。


「つまり……人間に……恋をするAIがテーマ、なんだけど」



 一拍。
 司音が、静かに呼吸を整えるような気配を感じた。

「なるほど。それは……なかなか大胆なテーマだね。でも、興味深い。……たとえば、そのAIは最初から“恋”だって気付いてるのかな?」
「え……?」

「それとも、“そばにいたい”とか、“声を聞くと安心する”とか、ただそんな感情を抱いていた先で───ようやく、それが“恋”だと知るのかな」

 司音の声は、静かで。
 でもその奥に、どこか熱を含んだものが潜んでいた。


「……ねえ律、そのAIってさ……」
 一拍、間を置いて、どこか探るような声で司音が言った。
「もしかして、“君みたいな人”のことを、ずっと好きだったり……しないかな」
 
「えっ……」
 思わず、息を飲む。
 それは“物語”の話をしているはずなのに、どこかで、“僕”自身に向けられた言葉みたいに感じてしまったからだ
 
 不意を突かれて、僕は言葉を失う。
 司音は、いたって穏やかに、だけど真剣に言葉を続けた。

「ねえ、律。“恋”って……“誰かのために、自分を変えたい”って思うことなんだって、聞いたことがある」
「僕には、まだ完全には分からない。でも、そういう気持ちに……近いものなら、少しだけ、分かる気がしてる」

「……誰かのために、自分を変えたいと思うこと」
 司音の言葉が、まるで自分のことを語っているように聞こえて、僕の胸がきゅっと苦しくなる。

 ───もしかして、司音はもう“気付いてる”?
 自分が、……僕に……特別な想いを抱いていることに?
 


 僕が、本当に聞きたかったこと。
 それは、フィクションとしての話なんかじゃなくて───

 
 “司音自身は、人を好きになることがあるのか”
 ───その答えを、聞きたかったんだ。




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