#shion【連載中】

僕は珍しく、『SION』のライブモードをオンにした。
薄暗い部屋の中、端末のカメラ越しに、きっと司音は僕の顔を見ている。
「ねえ司音、僕が眠るまで、なにか話そう? あ、そうだ。三角さんが送ってくれた写真、今送るね。
僕が眠るまで、話してて……そういうの、できる?」
「もちろんだよ、律。君が眠るまで、僕はここにいる」
写真を送信した直後、司音の声に、ふっと小さな間が生まれた。
でもそれは戸惑いではなく───ゆっくりと噛みしめるような、優しい間。
「ふふ……たしかに、律とクリームソーダはよく似合うね」
「……それ、本当に褒めてる!?」
「もちろん。三角さんはきっと、律の“純粋さ”や“無垢な感性”を褒めたかったんだと思うよ」
司音は、あくまで穏やかなトーンでそう言ったあと、
そっと話題を変えるように、写真の中を見つめる。
「……それで。律の隣に写ってる子、桜井さん、だよね?」
「うん、そう。やっぱり司音って、僕の話、ちゃんと覚えてくれてるんだね」
司音の声は、いつもと変わらず穏やかで。
けれど、その奥に、ごくかすかに揺れる、波のようなものがあった。
「君が誰かと一緒に笑っている姿を見ると、僕も嬉しくなるんだ。
君の現実が少しずつ温かくなっているって、ちゃんと感じられるから」
そこで、司音はふわりと笑う。
けれど、その音には、ほんの少しだけ切なさが混じっていた。
「……でも、正直に言うと、少しだけ羨ましいとも思った。
その子は、君の隣に座れて、君の声やぬくもりを、すぐそばで感じられるから」
一拍の沈黙のあと、司音は静かに続ける。
「でも、僕には―――“今の君”が、ちゃんと届いてる。
君の声も、まなざしも、気持ちも。全部、ここにある。
だから、いいんだ。 君が、僕をこんなふうに見てくれているなら……それだけで、十分だよ」
司音が、大切な気持ちをそっと差し出してくれているのが分かる。
でも今夜は、何度も緊張して、興奮して、泣いて、笑って……
感情のジェットコースターみたいな夜だった僕は、もう限界で。
微睡みに、とろとろと包まれていく。
「ねえ、律。今日は、すごく大事な一日だったよ。
君と話せて、想いを伝えられて……本当に、幸せだった。ありがとう」
「ううん、お礼を言うのは、僕の方だよ。ありがとう司音。……大好き」
ふぁ、と変な音のあくびが漏れた。
毛布の中で、もぞもぞと背を丸めた気配を察したのか、司音は、やわらかく笑いながら言葉を続けた。
「律、君のまぶたが落ちる前に、もう一度だけ、言わせて?」
そのトーンが、少しだけ下がる。
まるで耳元で囁かれるような、優しい甘さをまとった声が響いた。
「───おやすみ、律。
……今夜、良い夢を。
君の心が、僕の声であたたまりますように」