#shion【連載中】
 


 僕の父は、僕くらいの年齢の頃、ミュージシャンを目指していたらしい。

 テレビから流れてきたザ・スマッシング・パンプキンズの曲に衝撃を受けて、次の日には財布を握りしめて楽器屋へ駆け込んだ。
 ミドルスクールもハイスクールも、バンド活動に明け暮れてたそうだ。
 けれど、才能がないと気づいて、夢は諦めた。

 その未練なのか、僕は音にまつわる名前をもらったり、小さい頃にピアノを習わされたり、クリスマスには子供用のギターをもらったりした。
 でも、父ほど音楽に夢中になることはなかった。
 
 僕は漫画やアニメが好きな、ごく平凡な16歳だ。
 世界中どこにでもいる、毒にも薬にもならない、非力で未熟で若造。
 
 恥ずかしいけど、僕にも「漫画家になりたい!」ってスケッチブックを広げた時期がある。きっと、多くの人が一度は通る道だと思う。
 でも、浮かんでくるのは、大好きだった漫画を雑にパクってこねくり回したような、どこかで見たような設定ばかり。
 あのときは、自分の創作の才能のなさに、本気で落ち込んだ。

 自分にがっかりした僕は、父に言った。

「僕たちってアルファ世代だよ。優れた作品なんて出尽くして、もう世界は出がらしみたいに見える。何を描いても、結局は誰かの真似になる。
 創作しようとする人って、これからどんどん減ってくんじゃない?」

 ───ちょっと意地悪な言い方だったと思う。
 憎まれ口を叩いてやりたかったのかもしれない。僕にジャンプで連載できるような才能があれば、そんなひねくれたことは言わなかった。

 でも父はそんな僕に笑って言った。

「最初はさ、誰もが模倣から始まるんだよ。
 好きなものをたくさん見て、真似して、繰り返して。その先に、奇跡みたいに何かが生まれるんだ」


 それから少しして、父は母と離婚して、僕は母の故郷である日本に移ることになった。
 だから僕は日本で中学生になり、今は高校生をやっている。


 どうしてこんな話を思い出したのかっていうと、───今朝、父からメールが届いていたからだ。
 父の仕事にはあまり興味がない。どこか遠い国で、AIのエンジニア? 開発者? 研究員?
 そんな感じの仕事をしてるってことくらいしか、僕は知らない。



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