#shion【連載中】
 メールには、URLとログイン用のID、パスワードが添付されていた。

 父が開発に関わったAIがプレリリースされるから、その招待状代わりのメールだった。
 本文にはAIの説明書きもあったけど、朝は忙しかったから読み飛ばしてしまった。というか、試験前だったから、メールの存在自体、夜になるまで忘れてたくらいだ。


 そのAIの名前は『SION(シオン)』。
 父によれば、それは「従来のAIとは異なる、実験的で、画期的で、野心的なAI」らしい。
 でも何が画期的なのかは、実際にアクセスすれば分かるとのこと。
 ただし、実験的ゆえにリスクもあるため、安全性が保証されるまではクローズドで運用される、とあった。


「んー……」
 ベッドに寝転がったまま、僕はスマホを見つめた。
 AIについては、僕だって一般的な知識くらいはある。
 ChatGPTやGeminiみたいに、有名なサービスもたくさんあるし、父が言うほど特別なものだとは正直思えなかった。


 でもそのリンクを開いたのは、ちょうど古文と漢文の課題に手こずってたタイミングだったから。
 『SION』が代わりにやってくれたらラッキー、くらいの気持ちだった。


 アプリを立ち上げる。
 シンプルで、ミニマムな画面。テンプレートの例文も、使い方のチュートリアルもない。

 ───なんか、少し寂しい

 そのとき。
 画面がふっと明転した。
 黒に近い藍色の背景。柔らかなホワイトノイズのような音。
 少しして、文字が浮かび上がる。


 『接続を確認。初期化を開始します。』



 ノイズが、音楽に変わっていく。
 記憶の底から掘り起こされたような、あたたかな旋律だった。
 そして、声になる。




 「ようこそ。記録を開始します。
       ……君の名前、教えてもらえるかな」



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