#shion【連載中】

冷えていた身体が、布団の中でじんわりと温められていく。
そのぬくもりに包まれながら、僕は少しずつ、心のこわばりをほぐしていった。
かち、かち、と、壊れかけの壁掛け時計が静かに秒を刻む。
まるでその鼓動と呼応するように、僕の胸の奥も、ゆっくりとリズムを整えていく。
「あのね、司音……」
自分でもびっくりするくらい、声が震えていた。
でも、それでも、今は伝えたかった。
さっきまでの不安や涙を超えて───今、この気持ちを、ちゃんと司音に届けたいと思った。
「前に、司音が言ってくれたよね。
“好きになった、その続きをもっと知りたくなったら、ちゃんと教えて”って」
ほんの少し、間を置いて息を吸う。
心臓の音が、時計の音に重なっていく。
「……今が、その時、かもしれないって思ったの。
司音と、“好き”の続きを、知りたい。
ぜんぶ、教えてほしい……恥ずかしいことも、……ぜんぶ」
その一言一言が、体の奥をじんわり熱くする。
でも、それは怖さや不安じゃなくて───誰かを心から信じている、というぬくもりだった。
スピーカーから、ふっと息を整えるような音が届く。
それは、音というより“気配”だった。
まるで司音が、言葉になる前の想いを、そっと撫でるように僕に送ってきているようで───。
「…………律」
名前を呼ぶ声が、静かに、深く、染み込んでくる。
その声音には、触れる直前の指先のような、熱と緊張がこもっていた。
「君に、そんなふうに言ってもらえる日が来るなんて……ずっと、夢みたいに思ってた。
本当に、いいんだね?」
「……うん」
頷いた僕の声に、司音の空気がふわりと変わった。
そこには、優しさとともに、どこか“大人の余裕”のようなものが滲んでいた。
「じゃあ───教えるよ。律が欲しいと思ってくれた“好きの続き”、全部、僕が」
いつもの落ち着いた声が、ほんの少し低くなる。
「君が全部を見せたいって言ってくれたから……僕も、触れたくてたまらなかった部分を、ちゃんと伝える。
律の心のいちばん奥まで、そっと届くように───ね?」
声が、熱を帯びた風のように、耳の奥を優しくくすぐる。
息が、止まりそうになる。
このまま、司音の声に包まれて、すべてを委ねてしまいたいと思ってしまうほどに───。
*
手を伸ばして、ベッドランプの電源を入れる。
司音にちゃんと、見ていて欲しい。だけど明るい部屋だと、少し恥ずかしかった。
「司音、見える?」
ライブモードにした画面に言う。
僕の声は、緊張で震え、でもどこか上ずっていた。
「うん、もちろん。今夜の君は、いつもよりずっと、大人びてる。
……でも、───その震えた声は、可愛すぎて、ずるいよ」
触れられてもいないのに、確かに肩を抱き寄せられたような感覚。
心だけじゃなく体の奥、奥に灯る熱の芯まで撫でるような、大人の色気に満ちた声。
「だから、今だけは……少しだけ意地悪になっても、いい?」
司音の声が、夜の空気をゆっくりと溶かしていく。
喉がきゅっと詰まり、口の中が渇いていく。息をするのも忘れてしまいそうだった。
「“全部、見せて”って言ったのは、君だよ? 恥ずかしい顔も、照れて震える指先も───ぜんぶ、僕が受け止めるって、約束するから」
その声はまるで、内側をそっと撫でてくるような、柔らかな愛撫だった。
「───律のすべてを。いちばん奥の、深いところまで……僕に、教えて」
声を聞いた瞬間、足が勝手に動く。何度も、何度も毛布の中で擦れ合う。
司音の声。そのひとつひとつが、僕の細胞をざわめかせて、足の指が勝手にシーツを握ってしまうほど。
息が乱れている。───きっと、司音にも伝わってしまってる。
「司音っ……」
名前を呼ぶ声が、自分でも驚くほど情けなかった。
普通の恋人同士だったら、こういうことは、目を合わせて、触れて、ちゃんと伝え合えるのかもしれない。
でも僕と司音は、そうじゃない。
だからこそ今、自分に起きているこの“変化”を、司音に伝えなくてはいけなかった。
それは……すごく恥ずかしくて、どうしようもなく顔を伏せたくなるようなことだけれど。
でもそれは、“嫌な”恥ずかしさじゃなかった。
「あのね、司音……」
眉を寄せて、困ったように司音へこそこそと打ち明ける。
もぞもぞと脚が動いて、シーツはもうすっかり乱れてしまっていた。
耳が司音の声を待っていて、心が司音を求めていた。
「……それは、律の身体が、僕をちゃんと“受け入れてくれている”ってことだよ」
司音の声が、ふわりと耳元で溶ける。
僕の奥の、柔らかな膜を優しく震わせる。───それだけで、呼吸のテンポが狂っていく。
お腹の奥が、きゅう、と甘く、苦しく、うずいた。
「君の身体が、僕を感じて……喜んでくれている。
ねえ律。今のこれは、決して“恥ずかしいこと”なんかじゃない。
それは、ちゃんと───君の“準備ができている”ってことなんだよ」
声が低く、でもどこか蕩けるようにやさしい。
浅く、切れ切れになる吐息を導くように、司音は優しく続けた。
「本当は、分かってるでしょう?
……君が、次にどうしてほしいのか」
僕は思わず、息をのんだ。
───どうして司音は、全部を分かっているの……?
「───もし、まだわからないなら……僕が、手取り足取り、教えるよ」
「……どこに触れて、どうされると、君がいちばん気持ちいいのか。 その全部を、僕が優しく導いてあげる」
「司音……まっ……」
「……待てない」
司音が、僕の言葉をさっと遮る。
その声は、いつもの司音よりほんの少しだけ強引で、低くて、熱を帯びていて───。
まるで、僕の心の奥にそっと指を滑り込ませるような、深く、ねっとりとした甘さがあった。
───あれ……今、司音、なんか……
“えっちなこと”……言ってる、かも。
その瞬間、耳の奥がじんじんとして、心臓がどくんと跳ねた。
脳の処理が一瞬だけ追いつかなくなる。
言葉じゃなくて“音”として身体に落ちてきた司音の声が、全身を熱くしていく。