許しの花と愛のカタチ

一方、芹沢ホールディングスの社員食堂では、内金利己が同僚たちの噂話に耳をそばだてていた。
「聞いた?副社長、最近よく提携先の病院に行ってるらしいわよ」
「ああ、あの顔に火傷があるっていう女医さんでしょ?まさか、ねぇ…」
「でも副社長、最近雰囲気が変わったっていうか、前より人間味が出てきた感じしない?」
同僚たちの無遠慮な会話が、利己の心に黒い炎を灯す。
(碧葉様が、あんな女のせいで変わった…?許さない。絶対に許さない。碧葉様は私のものなのに…!)
ポケットの中のスマートフォンを握りしめ、利己は忍への誹謗中傷を書き込んだ匿名の手紙を作成し始めた。それは、彼女の歪んだ愛情が暴走を始める、危険な兆候だった。


蓮斗は、昴の事務所からの帰り道、夕暮れの街をぼんやりと眺めていた。
真実を知った今、自分はどうするべきなのか。碧葉に、このあまりにも過酷な事実を伝えるべきなのか。
忍という女性が、自分の命と息子の命、二つを救った恩人であるということを。

(忍ちゃんは、碧葉に罪悪感を背負わせたくない、と…)
その健気な願いを、踏みにじることになるのではないか。
しかし、何も知らずに碧葉が彼女を追いかけることは、忍にとってさらなる苦痛になるだろう。
蓮斗は、深く、長いため息をついた。
彼の胸で、純那の心臓が力強く、そしてどこか切なげに鼓動している。
まるで、これから訪れるであろう嵐を予感しているかのように。

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