鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

序章(序章のみヒロイン視点)

 
 私が、九鬼兜(くきつ)家へ嫁入りした時に、咲き誇っていた春の薔薇。

 今はもう、薔薇の花は終わってしまっていました。

 二人きりで、庭を歩く静かな時間。

 立派な軍服に身を包んでいるのは、私の夫。

 大日麗帝国(だいにちれいていこく)対妖魔軍少佐(たいようまぐんしょうさ)九鬼兜要(くきつ・かなめ)

 これから戦地へ赴く、私の愛する人。

 『帝国の冷徹武士』と呼ばれ恐れられていた人。

 でも私にとっては、誰よりも私を愛してくれる優しい夫。

「……要様……」

 哀しみに揺れる私の手を握って、綺麗な紅い瞳が私を見つめる。
 
「鎖子。俺は必ず帰ってくる」

「はい……待っています。要様……」
 
 優しく抱きしめられて、唇が触れ合う。

「愛している」

 私の涙を、優しく拭ってくださる。
 軍人の妻として至らない私を、怒りもせずに優しく……。

「愛しています……要様……」


 屋敷から出る馬車を、見送る時にまた涙が溢れました。

 幸せの絶頂から、突然の出征に……私の心は引きちぎられるように痛んで痛んで……。

 でもずっと、ずっと、愛する貴方の帰りを待っています。
 必ず帰ってくると、信じています。

 九鬼兜要の妻として、ずっと強く待っておりますから……絶対に、帰ってきてくださいませ……要様。


 
 それなのに、数カ月後……届いたのは彼の死を告げる『戦死公報』でした。

 
< 1 / 78 >

この作品をシェア

pagetop