ゆびさきから恋をする
 翌朝、実験台に分厚い本が置かれていてこれはなんだろうと思う。

 ペラッと好奇心でめくると新しく導入された測定装置の手順書だとわかった。


「なにこれ」

 呟くとその上に紙が一枚降ってきた。

「優先に測ってほしい元素は丸つけてるからそれからデータ取ってくれる?」

 いつのまにか傍にいた久世さんが見下ろしてくる。

「……えっと」

 渡された紙と久世さんを交互に見ながらも、理解が追い付かない私に納得したように椅子を引いてきて腰を落とした。

(ち、近いな)

 ドキドキしかけた私をよそに完全仕事モードの久世さんは一気に話し始める。

「新しい装置のばらつきを確認したいからそのデータ取り。混合できるやつはしてくれていいし測定は一気にできるけど……解析がまぁめんどいよな。最終的には全元素測るから随時進めてくれる?」

「……えっとぉ」

「やり直しの試験は乾燥とかちょこちょこ空き時間あるだろ? 納期もまだあるしまぁなんとかなるだろ。もちろん試験を優先して構わないけど、このデータがとれないと装置も使えないからそこは考えて進めて? なにか質問は?」

「……この装置、私、触ったことありません」

「だろうね。俺と井上しか触ってない。井上もほぼ触ってないに等しい。だからはやく立ち上げたい。部長にも急かされてるし」

 その言葉に眉を顰めると笑われた。
< 105 / 121 >

この作品をシェア

pagetop