ゆびさきから恋をする
 久世さんの言いたい事がいまいちつかめない私を楽し気に見つめる目の前の人はさらりと告げてくる。

「初めて触るときはとりあえず声かけて。立ち上げからは俺も立ち会うし、いきなり一人で全部やれは言わない」

「……全部?」

「全部。データ取りから解析まで全部」

「……え?」

「悪いけどさ」

 下から見上げるように久世さんが見つめてくる。

 背の低い私が椅子に座る久世さんと並べば見下ろす位置にはいるけれどさほど目線は変わらなくて。むしろ無駄に近くなっただけなのにさらに距離を詰められた。

「山ほどあるんだわ、やらせたいこと」

(え?)

 そう言う瞳は意地悪く光っている。

「仕事、したいんだろ?」

「!」

「頼りにしてるよ」

 そう言って頭をクシャッと撫でられた。

 その手がそっと頬に触れて長いゆびさきでほっぺをきゅっとつままれた。

「よろしく」

 意地悪そうに、でもとてつもなく甘い笑顔で笑って立ち去っていく。その後ろ姿を見つめながらつままれた頬に触れて思う。


 手の温もりが、かけてくれる言葉が、触れたゆびさきが……目の前にあるだけで十分だ。


 久世さんとこうして繋がり合えたなら、それだけで私の毎日が輝きで満ち始める。



 ~完~
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