ゆびさきから恋をする
(ボックスの中身の量の確認もしないで訂正するんだな……なにそれ)

 胸の中でつぶやくけれど言葉にはできない。彼女からしたらボックス内の廃液量なんかどうだっていいのだ。

 派遣社員が勝手に書き直した値が気に入らない、それだけのことだろう。


 ひとり実験室に残されてファイルを眺めながらポツリ。

「なにが管理……」

 誰もいないをいいことに吐き出してしまった。


 木ノ下さんの仕事ぶりはいつもこうだ。管理もなにもない、漏れやミスも多いしやってるだけ感がすごいのは日常で慣れている。確認もチェックもない。それでもいつも忙しいと走り回ってるような人。

 それでも私とは違う。

 彼女は社員で、私は派遣。任される仕事が全然違う、悔しくてもそれが現実だ。

 社員さんに与えられた責任のある仕事、それが大変なことはわかっている。与えられてないから余計にそれを感じている。でもそれを盾にされて忙しいとアピールされると悔しくなる。

 私ができないんじゃない、派遣にできないだけなんだと何度も言い聞かせる。

 派遣で働く以上この感情から抜け出せない。その悔しさが年々心を蝕みだしてきた。


「なにしてんの?」

 いきなり声をかけられて心臓が飛び跳ねた――久世さんだ。
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