ゆびさきから恋をする
「内田!」

 そこに久世さんが怒鳴る様にウッチーの名前を呼んで冷たい声で言った。

「タオル取って来い」

「え……」

「事務所だよ! バスタオル取って来い!」

「はいぃぃっ!」

 ウッチーがその言葉に飛んで行った。

「……」

 実験室に取り残された私はより羞恥心が湧いてきて……ウッチーに見られた事よりも久世さんに見られていることの方が数倍恥ずかしくて穴があったら入りたい状態である。
 
「なにやってんだよ……」

 はぁ、っと髪の毛をくしゃりとかきあげて重いため息を吐かれて項垂れてしまう。

「ご、ごめんなさい。水浸しに……」

「は? そんなんどうでもいいわ」


(え)

 この水浸し状態に怒っているのではないのか? そう思っていたのに、どうでもいいと言って久世さんは自分の制服の上着を脱ぎながら私にゆっくり近づいてくる。そのままふわりと制服を肩にかけられてまだ残る久世さんの温もりに包み込まれた。

「え、ぬ、濡れちゃう……」

「そのままでいさせられるか」

(そ、それはそうかもだけど……)

「あのアホに近寄んのやめてくれる?」

「アホって……」

「内田のアホ。あいつマジでムカつくな」

 そう言ってグッと腰を引き寄せられて久世さんの胸の中に引き寄せられる。

「わ! ちょ、ちょっと待って! いろいろ待って!」

「なに?」

「な、なにって……私濡れてるし、ここ会社だし、えっと……」

 ウッチーも戻って来るかもで、ほかに誰かが来るかもだし、それに……言い訳を必死で考えているのだが久世さんはそんなことどうでもいいみたいにぎゅっと抱きしめてくるから。
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