ゆびさきから恋をする
「……ぬ、濡れちゃう」

「いいよ、別に」

「でも……制服まで借りてるのに……余計に……」

 久世さん自身を濡らしてしまう。現に肩が、胸あたりが髪の毛の雫で染みを作り始めている。


「そんなに気になるならいっそ脱がそうか」

「なっ!」

 思わず声をあげたらプッと笑われて結局ぎゅっとされるだけ。ちょっと苦しいくらいの抱擁、なのにどうしよう。ダメだって分かってるのに、濡らしてしまう……そう思っても。

(どうしよう……いいのかな)

 戸惑いながらも自分の腕を久世さんの腰回りにまわしてしまった。制服を脱いでいるから、シャツの上からわかる筋肉質な肌にドキッとして触れた手が一瞬躊躇ってしまったのだが、そっと触れる。

「……寒くない?」

 耳元で甘い声で聞かれて震えてしまったら「寒いよな」ってまたぎゅうっとしてくれる。

 震えたのは寒さじゃないです、なんて恥ずかしくて言えない。久世さんの声に身体が震えたなんて言えるわけなくて。でも言えない代わりにすり寄った。

 濡れた体がじわりと熱を孕む、久世さんの体温まで奪ってしまうかも……そう思ってももっと抱きしめてほしいと思ってしまった。
 
「はぁ……内田本気でムカつくわ」

「え?」

「あいつ、距離感バグってるから気を付けろよ?」

「……ウッチー彼女いますよ?」

「彼女いてあれなら余計気を付けろ」

 呆れた声で言われたらここで言い返しても水掛け論な気がして素直に頷いておいた。


(でも……)
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