ゆびさきから恋をする
「昨日はこれを隠したんだ? なんで言ってくれなかった? 言えばよかったのに」

「別に隠したわけじゃ……」

「何でも飲み込むのが正解じゃないよ」

「そんなつもりじゃないです。木ノ下さんの言い分がもっともなので私が言うことなんかなかっただけです」

「木ノ下さんの言い分が真っ当だって本気で思ってる?」

(思ってないけど)

 思ってはいないけれど……木ノ下さんは私の意見など聞いてくれる人ではない。頭から聞き入る姿勢もなく叩かれたら誰でも飲み込む。そんな心の奥の声など久世さんに届くわけもなく黙っていたら言われた。


「井上とも話して決めたことじゃないの?」

「そうですけど!」

 昨日収めたはずの気持ちがまた湧き上がってきて声が無駄に荒れてしまった。

「……そう、ですけど。言う前に話が終わったので」

「とりあえず、改善提案書にまとめて出して?」

「は?」

(とりあえずってなに? しかも改善提案?)

「改善提案、出せるだろ?」

 いきなり言われて意味が分からない。そもそもなんの話をしているのか。

「前から思ってたんだよ。菱田さんってさ、何気に仕事の行程とか手順自分なりに考えて変えてるだろ。だから同じ精度が出せてる。なんで改善提案出さないの?」

「そんな、わざわざ文書にするようなことはしてません」

「それは勘違い、文書にしろ。自分で考えて変えたことがプラスになるならそれは改善。どんなしょうもないことでもだ。これは業務命令、改善提案に出せ」

「ええ?」

「自分の出してる試験の精度の高さ自覚してる?」

(え?)

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