ゆびさきから恋をする

年下の部下は噛みついてくる

 本社の品質管理から異動してきて慣れないことが多かった。

 大学で化学をやっていたとはいえ、いきなり試験ばかりもしていられないし、前課長の引継ぎ……そもそもほぼ顔も会わさず休みがちで基本メールでやり取りばかり。分かることもスムーズにわからないのは超絶ストレス。なのに溜まりまくってる報告書の承認に追われていたらデータを確認したりと時間がいくらあっても足りなくて。

 部下の誰かに仕事を振るしかない。けれど適任がいない、それが一番の悩みの種だったのだが。

(……速いな)

 依頼を回せば二日に一件くらいのペースで報告書を回してくる派遣社員の菱田千夏。分析経験も五年と確実にキャリアをつけてやれる仕事が多い、測定値のばらつきもなくデータのまとめかたをみても無駄がない。

 なにより――。

(全然ミスしねぇな。一発の試験でここまでの精度出して報告書上げんのか)

 定期分析なんかは数カ月、それこそ半年前とでもほぼ同じ精度で同等の値を出してくるから思わず疑ってしまった俺。

(これ本当にやってんのか? 前のデータコピペしたとかねぇよな?)

 速さと精度を疑うと答えはそこに辿り着いて。辿り着いたら……疑った。
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