ゆびさきから恋をする
 いつもだいたい定時であがる彼女が事務所に上がってこないので時計を見ると十八時半を回っていた。

(おせぇな)

 様子を見に実験室に降りて行ったら俺に気付いた彼女が声をかけてくれた。

「あ、おつかれさまです」

「お……つかれ……」

 黙々と作業していた結果か、実験台にはフラスコが恐ろしいくらい並んでいて若干引いた。

(あれ? 俺こんなに仕事押し付けてたかな)

「これ……なに?」

 並ぶフラスコをひとつ手に取ってサンプル名を確認すると俺が渡した試験サンプルだった。間違いなく俺が振った仕事をしている。そしてそれは彼女こそ思ったのだろう。

「なにってなんですか?」

 自分が振ってる仕事だろうが、猫目がそんな風に言っているようで……睨まれた。

「いや、ごめん。俺の振ったやつか」

 分かっているが茶化して聞いたらまた睨んでくる。

「ほかにありました?」

「ないです」

「ですよね」

 俺にこんな風に言い返してくるのは同期か彼女くらいだろう。

「俺がこんな量のサンプル試験してる時間あると思う?」

 開き直ると笑われた。

「ないですよ? ないでしょうけど……これなにもないですよ」

 振っといてひどい、そういう割に全然嫌そうじゃない。

「ごめん。助かってる、本気で」

 そう言うと照れたのか俯いた彼女。
< 20 / 121 >

この作品をシェア

pagetop