ゆびさきから恋をする
 もう一段上の棚。届かないことはないがかなり腕を伸ばして爪先立ちだ。

 私は背が低い。近くに踏み台は見当たらないし店員さんも近くにはいない。迷った末に足を伸ばすのだが。

 (ん〜……もうちょい……)

 ゆびさきが震える。人差し指が本の角には触れるけれど不安定な足元で今ひとつ引き出す力がでない。意地になってきて頑張ってたらその辞書にかかる手があってなかなか取り出せない辞書がサラッと引き出される。


「え」

「よう」

「くっ……!」

 (久世さんっ!)

「誰かに声かけりゃいいのに」

「……あ、ありがとうございます。って、なんで!」

「なんで? 菱田さんはなんで?」

「わ、私は本を探しに」

「俺も」

 (そりゃそうか)

 変な間……そしてなんだかおかしくなって吹き出した。

「ふふ、びっくりしました」

「俺も。なんかすげー頑張ってる子がいるなって。あれ取れんのかなってちょっと見てたんだけど」

 (見てるくらいなら早く取ってよ)
< 31 / 121 >

この作品をシェア

pagetop