ゆびさきから恋をする
 味を堪能している私に久世さんが聞いてくる。

「食べたことなかったの?」

 その言葉に素直に頷くと「なに味?」と問われてカフェオレを一口飲んで答える。

「キャロットケーキに似た感じです」

「キャロットケーキ?」

 意外そうに言われて今度は私がクスリと微笑む。

「バナナ、パイナップル、くるみ系で甘酸っぱくてしっとりしてる感じです。そしてちょっとスパイスの香りかな。クリームチーズのフロスティングが美味しい!」

「食べるの好きなの?」

 食レポみたいに嬉しがって説明したからか、そんな風に言われて初めて赤面。食べることは好き、図星である。

 少しからかうみたいな口調に、私はぷくっと頬をふくらませてしまうが否定できない。どうせ食いしん坊ですよ、でも……なんとなく言い返したくなって。


「……好きです。美味しいもの食べると……色々思う日があったって……また頑張ろうってなるじゃないですか」

「色々……って、なんか悩んでたりする?」

「え?」

「頑張ろうって……別に充分頑張ってない?」

(……)


 そうなのだろうか。言われたことをやるだけの日々は頑張っていると言えるのだろうか。

 年月を重ねるほど、物足りなさや自分の中のやりがいを見出せなくなってきた。

 私がしたいことってなんだろう、私が今の職場でやれることって何? そんな思いばかりを巡らせている。


「……ねぇ、辞典見せてよ」

「え?」

 久世さんが、軽く微笑んで私を見つめる。その目に見つめられてなんだか胸が詰まった。

「……どうぞ」

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