ゆびさきから恋をする
 紙袋から取り出して差し出したら骨張る綺麗な長いゆびさきが辞典をなぞる。

「すげーの買うなぁ。俺には買えない」

「……え?」

「そりゃそうだろ。気軽に買える金額じゃないじゃん。よく買ったな」

 馬鹿にされた感じではない。本当に驚かれていてなんだか恐縮してしまう。

「ただの勘違いだし……変な見栄ですよ。色々恥ずかしくて言えなくて」

「勘違いだったんならやめていい。そう思うくらいの金額だよ、これ。やめます、って言っても笑われるようなことじゃない」

 横目に見つめつつそんな風に言われて言葉に詰まっていると久世さんは言う。
 
「こんなん買おうって思うヤツが、頑張ってないなんか思わないけどな」

 (え……)

「実際ひと月の依頼件数どんだけ捌いてんだよ。そこに俺の無茶ぶりまでさせられて……」

「……」

「振ってる俺が言うなだけど」

 そう言ってクスッと笑う。

「これ、職場に持ってくる?」

「……え、あ……どうしようかな」

 そこまで考えていなかった。でも実験の空き時間とかに読んだりしてもいいのだろうか。そんな思いを巡らせていたら久世さんは言う。

「せっかく奮発して買ったんだ。しっかり読んで身につけて元取れよ」

「……」

「持ってきてよ」

「……」

「そんで、俺にも読ませて」

 そう言う顔がなんだかヤンチャな男の子みたいで。

「……はい」

 私の口は勝手にそう呟いて微笑んでいた。

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