ゆびさきから恋をする
 偶然過ごすことになった久世さんとの思いがけない休日。

 あのあと他愛もない話を少ししたり、仕事の話やちょっとだけ人の愚痴までこぼしたり。どこか仕事の延長みたいな会話だらけだったけどどれも楽しくて。
 
 コーヒーを飲んだらカフェで普通に別れてまた日常。職場で出会っても休みに過ごしたあの時間を掘り返す感じはなくてそれがなんだか逆に特別感みたいでくすぐったかった。

 それはまるで――内緒の時間……そんな気がして胸の奥で照れてしまう。

 変な勘違いもしていないし、なにと久世さんとの関係が変わるわけでもないのに私は少しだけどこか意識し始めている。
 
 関係が変わるわけではない、そうは言っても全く変わらないとも言えないのはやっぱり辞典のせいかもしれない。仕事中、たまにフラッと実験室に降りてくる久世さんは私に言ってくるから。

「ねぇ、辞典見せて」

「……」

 なんなら私より久世さんの方がこの辞典を開いている……は思っていても言わない。

 (なんだかもうしっかり元は取れた気がする……)

 自分が、ではなく久世さんが……なんてことを言ったらまたバカにされてなんなら叱られるかもしれないからもちろん胸にしまっておく。そんな私の横でなにやら頭のいい人が唸っているのだ。

「うーん……なんでかな」

(何を悩んでいるのかな?)
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