ゆびさきから恋をする
Section3

鬼上司に弱みを握られる

 依頼を終えたサンプルも増えたので十五時の休憩を終えて後片付けをしてからは報告済みの使用サンプルの返却作業にしようとサンプルや試験ファイルなどが保管されている資料倉庫に籠ることにした。

 一人で黙々作業は嫌いじゃないけれど誰もいない倉庫はどこか物寂しい。

(いや、むしろなんか怖い)

 まだ日が出ている時間だが今日はあいにくの雨模様で外はもう薄暗く、北奥の倉庫はさらに暗く感じた。無駄に明かりをつけて怖くないと自分に言い聞かせていた。

 換気扇の音と雨が天井付近にある小窓を叩くだけ。何も音がないわけじゃないけれど別に心休まる音でもなく、意識をすると怖さがついてきてしまう。

 なるべく考えないように、これ以上奥には進まないように、とにかく無心で作業に取り組もう。そう思い段ボールを取ってきて、持ってきたデシケーターを開けた。

 薬包紙に包まれたサンプルの山を取り出して依頼書と、もともと預けられていたサンプルを照らし合わせて片付け始める。
 
 どれくらい時間が経ったのか。ふと気づいて倉庫内を見渡すものの時計がなく。

(携帯……)

 そう思って実験室に置いてきたことを思い出した。
< 44 / 121 >

この作品をシェア

pagetop