ゆびさきから恋をする
 背後に久世さんがいる。背の高い久世さん……それはまるで包まれるような体勢で。

 だから無駄にドキドキしてしまう。そこに言うのだ。

「重いから危ないよ。こういうことは無理にしない」

「……」

「怪我する前に声かけて」

 抜き取ったファイルはそのまま机に置いてくれるから。

 そんなたかがファイルを棚から取るくらいで怪我なんかしないですよぉ! と、言いたくなるがダメだ。胸がキュンとしてしまった。


(さりげなく優しいんだから……)


 これ簡単に落ちる子いっぱいいると思うからやめた方がいいですよ、はもちろん言わない。

「ありがとうございます。助かりました」

「それいつのファイル?」

「えっと、先々月です」

「先月のって出てる? これかな」

「そうです。先月はそれで……」

「ごめん、ちょっと借りる」

 密室空間。

 そこでそれぞれ無言でお互いの仕事をすることになった。
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