ゆびさきから恋をする
 上司と二人きりというのも無駄に緊張してしまう。なるべく平静を保つように心がけつつもチラリと久世さんを盗み見した。

 骨ばった長い指が資料をすごい速さでめくっていく。いや、むしろ読んでないだろう、くらいの速さ。目に入れてもう流しているみたいな感じだ。

(頭の作りが私とは根本違うんだろうな)

 パラパラと依頼書をめくっていくけれど日にちだけが遡っていくから目当ての依頼書が見落としでない限りない気がした。迷った末に久世さんに声をかけた。

「久世さん」

 名前を呼ぶと切れ目の涼しげな目がこちらを向いた。

「二グループの耐水試験の依頼書なんですけどご存じないですか?」

「耐水……保坂の?」

「はい、私はもう報告書も出したから終わってるんですけど、見当たらなくて」

「それって先月の依頼じゃなかった?」

 そう言って手に持っているファイルをぱたんと閉じてまた頭から広げだした。

(あ、どうしよう、久世さんの仕事の手を止めてしまった)

 自分が調べていただろうことを後回しにしたのが動きでわかって咄嗟に謝った。

「すみません、仕事割り込ませて」

「いや……」

 静かにそう言って相変わらず早い手さばきでページをめくっていく。

(さっき見たつもりだけど見落としてたらどうしよう、もう一回自分で確認してから聞けばよかったかも)

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