ゆびさきから恋をする
 個人的に話す時間が増えたら知らない顔を知っていくのは自然なことで。職場の外でも、彼女はちゃんと俺に対して線を引いてくる。だからなんだか無駄に俺が信用してしまったのかもしれない。
 
 たまに実験室に降りた時にクリーンルームを覗いたら待ち時間かで辞典を広げている彼女の姿を見つけたら微笑ましくて。

 また声をかけてしまう俺がいる。

 そして彼女の買った辞典がおもしろくて俺が読んでしまって辞典をきっかけに話す機会が増えていく。


「塩酸溶解でも溶けないんですか?」

 頭を抱えた俺にさらっと返してきた彼女。
 
「砒素を分解するとき、過マンガン酸カリウムも添加しますよね? その時は塩酸溶解で綺麗に溶けますよ?」

 理屈と理論の整合性……そして持っている知識から気づける能力。

 (希釈倍率が分からんとか言って、値段の桁も勘違いするような抜けたとこあんのになぁ……)

 どうしたって面白すぎて。

 面白いは――興味深い、という意味だ。そんな彼女は今目の前で……雷にビビっている。
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